ペストは中世ヨーロッパを襲った最も致命的な疫病の一つであり、その影響は大航海時代にも及びました。「黒死病」とも呼ばれるこの病気は、航海者や新たな土地での探検者たちにとって、大きな脅威でした。この記事では、そんなペストの流行原因と、当時どのような対策が取られたのかを見ていきましょう。

 

 

ペストの流行原因

ペストはペスト菌（Yersinia pestis）が原因で発症し、特にネズミやそのノミを通じて感染が広がります。大航海時代には、ヨーロッパから新大陸やアジアなどへの貿易や探検が活発に行われ、それによって感染が広がる要因が増大しました。特に、船内はネズミが繁殖しやすい環境であり、ペスト菌を運ぶノミが乗組員に感染し、爆発的な流行が起きることがあったのです。

 

当時の船は、物資や食料を長期間積み込んで航行するため、衛生状態が極めて悪く、ネズミが食料を荒らし回ることが頻繁に起こっていました。これにより、乗組員は常にペスト感染のリスクにさらされていたのです。また、港に寄港するたびに病気が新しい地域に広がり、世界中で感染者が増えていきました。

 

ペストの恐ろしさ

ペストは非常に高い致死率を誇り、発症後数日で命を落とすことが多かったため、恐怖と混乱を引き起こしました。病気が流行する船では、多くの乗組員が急速に倒れ、船そのものが運航不能に陥るケースも少なくありませんでした。また、ペストは一度発症すると、発熱やリンパ節の腫れ、出血などの激しい症状が現れるため、乗組員同士での接触を避けることが困難でした。

 

当時とられた対策

ペストの治療や予防法は、当時ほとんど確立されていませんでしたが、いくつかの対策が試みられました。

 

検疫

一つの対策として、検疫が取られるようになりました。船が港に入る際には、乗組員や物資を一定期間隔離し、病気の兆候がないか確認する「検疫」が行われました。この方法は、新しい地域への感染拡大を防ぐために重要な手段となりましたが、検疫が徹底されない場合や、感染がすでに進行していた場合には効果は限られていました。

 

隔離

また、感染が確認された場合は、感染者を隔離することが求められました。病気が流行する港や都市では、病院船や特別な施設が設けられ、感染者が他の人々と接触しないようにしました。この隔離措置により、感染の拡大をある程度抑えることができましたが、完全に防ぐことは難しかったのです。

 

薬草やお祈り

治療法がほとんど存在しなかったため、人々は民間療法や宗教的儀式に頼ることが多かったです。薬草やハーブを用いて体調を整えることが試みられましたが、その効果は限定的でした。感染者やその家族は教会に行き、病気から救われるよう祈りを捧げることもありましたが、これは精神的な救済にはなるものの、実際の病気の進行には何の影響も与えませんでした。

 

ペスト医師の登場

ペストの流行が深刻になるにつれ、「ペスト医師」と呼ばれる専門家が現れるようになりました。彼らは、独特なマスクや防護服を着用し、ペスト感染者を診察しました。マスクは、鳥のくちばしのような形をしており、中には香りの強いハーブが詰められていて、空気感染を防ぐためのものでした。しかし、これも効果があるとは限らず、多くのペスト医師が感染により命を落としました。

 

ペストの影響

ペストは大航海時代に限らず、ヨーロッパ全土を数世紀にわたり脅かし続けた恐ろしい疫病でした。その結果、ヨーロッパの人口が大幅に減少し、労働力の不足や社会不安が引き起こされています。また、船員がペストで大量に死亡した結果、航海や貿易が停滞し、一時的に探検や新しい交易路の開拓も遅れることがありました。

 

ペストの大流行は、当時の社会や経済に計り知れない影響を与えただけでなく、人々の死生観や宗教的な信仰にも大きな影響を与えました。病気の恐怖から、多くの人々が日常生活において不安を抱え、生き延びるために様々な対策を試みたのです。